美とリベラルアーツBlog

NO.2 東京芸術劇場『真夏の夜の夢』

2020.10.27

シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を野田秀樹が日本の老舗の割烹料理店に置き換えた1992年の作品をルーマニアの鬼才と評されるシルヴィア・プルカレーテが演出したもので、コロナ禍でリモートで稽古し上演となった舞台です。
割烹料理ハナキンの跡取り娘ときたまご(北乃きい)は親の決めた婚約者の板前デミ(加治将樹)との結婚式を数日後に控え、突然「やめたい」と言い出し、本当に愛しているのは板前ライ(矢崎広)だと告白し、知られざる森へ駆け落ちしてしまう。ときたまごと幼馴染のそぼろ(鈴木杏)はデミとは元恋人で今でも片思い。デミの心を取り戻そうと、ときたまごとライの駆け落ちを教え、二人も森の中へ。
森では妖精の王のオーベロン(壤晴彦)と妖精の女王のティターニア(加藤諒)が拾った子どもを取り合い夫婦喧嘩をしている。オーベロンは子どもを手に入れるために妖精のパック(手塚とおる)を使い、悪だくみを始める。・・・この先に、悪魔メフィスト(今井朋彦)が現れ、人間の憎悪を増幅させ、舞台をかき回す。
プルカレーテの代表作は『ファウスト』で、『真夏の夜の夢』の喜劇は、「ワルプルギスの夜」をイメージさせる悪魔による恋の混乱へと展開します。
舞台いっぱいのスクリーンに、怪しく巨大なメフィストが映り、人間の闇を語ります。結婚式の余興では、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』が登場します。
舞台美術・照明・衣装、音楽、映像はルーマニアの著名なスタッフが担当し、野田秀樹の世界を作り上げます。
野田の大胆なアレンジは面白く、『真夏の夜の夢』とメフィスト・ワルプルギスの夜を相関させたストーリーも巧みな企てとなっています。
ただ、進行と場面の展開、登場人物(出演者)の関係がわかりにくく、野田の言葉遊びも飲み込みづらいところもあったように感じました。演劇では、早口でのセリフが聞き取りにくいといったこともあります。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』、ゲーテの『ファウスト』、野田秀樹の潤色、ルーマニアの演出家等が重なり合った演劇の独創性と意外性が、こなれて細部まで観客に届く作りとなれば、よりその意図が理解できるようになると思われました。
スクリーンによる映像がとても効果的で、特に、森の闇を疾走する鈴木杏、今井朋彦のメフィスト、加藤諒のティターニアが印象に残る舞台でした。(2020年10月1日)